学府について

留学生と共に
大神 智春 言語・メディア・コミュニケーションコース
留学生センター

2023年度から地球社会統合科学府言語・メディア・コミュニケーションコースの兼担教員となりました、九州大学留学生センターの大神智春と申します。留学生センターでは20年以上教鞭をとっていますが大学院では新任教員となります。どうぞよろしくお願いいたします。

高校生の頃から語学教育や異文化間コミュニケーションに興味を持っていました。それで日本語教育について学ぶことができる関東の大学に進学したのですが、当時はバブル経済が最後の輝きを放っていたこともあり、学部卒業後は周囲に流されるように一般企業に就職しました。しかし数年務めてみたものの日本語教師になることが諦めきれず、自分の将来について改めて考えるようになりました。そんなある日、九大大学院の比較社会文化研究科(比文)に日本語教育講座があることを知りました。それがきっかけで比文の修士課程に第4期生として入学することになり、日本語教育に再挑戦することになりました。修士課程修了後は中国の東北師範大学に赴任し日本語教育を行いました。この期間には研究者及び大学教員としてのキャリアを積むととともに自分が異文化環境に置かれるという貴重な経験をすることができました。その後の研究につながる人々との出会いもありました。日本帰国後は九大の留学生センターに着任し、それから20年以上留学生に日本語教育を行いながら研究を続けています。また、当センターで教鞭を取りながら博士論文を執筆し、「論文博士」として博士号を取得しました。

 日本語教育の中での私の専門分野は漢字・語彙教育とコロケーションの習得研究です。コロケーションは日本語学の分野では「連語」とも呼ばれています。日本語学習者がコロケーションをどのように習得していくか、コロケーションの習得にはどのような要因(例えば日常的な使用頻度、学習者母語の影響など)が関わっているかについて研究しています。  

留学生センターで上級レベルの学習者に漢字と語彙を教えていると、個々の語はよく知っているのに「私は悪い気分があります」などのように不自然な表現を用いる学生が少なからずいます。日本語では「悪い気分がある」は不自然な表現です。これは母語話者の視点で考えると適切なコロケーションを習得していないための誤用だと考えられます。しかし、学習者の視点に置き換えると、この表現は学習者が独自に築き上げたコロケーションに関する知識の一部であると考えられます。

また、例えば「切る」という動詞は辞書等では「野菜を切る」「縁を切る」「(記録が)10秒を切る」「(右に)カーブを切る」のような意味用法を持つ多義動詞であるとされています。多くの学習者にとっては、「野菜を切る」のように基本的な語義によるコロケーションの習得は比較的容易ですが、「(記録が)10秒を切る」のような派生的な語義によるコロケーションの習得は困難な場合が多いです。ただし、どのような語義が「基本的」でありどのような語義が「派生的」であると感じているかは母語話者と学習者では一致しているとは限らず、母語話者からみると「基本的」あるいは「基本的」に近く習得が容易だろうと思われても学習者は「基本的」だと捉えていない場合もあります。

そこで、コロケーション習得を学習者の視点から見直し、学習者が習得途上でどのような知識(「中間言語」と言います)を構築しているか、知識構築にはどのような要因が関わっているかを明らかにすることを目指しています。将来的には語彙学習教材を作成するなどして研究で明らかになったことを日本語教育実践の場に還元していきたいと考えています。

 日本語教育の分野に求められるものは教育を支ええる研究と教育実践の両者であると考えています。この両者に興味がある方を歓迎します。

 

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