学府について

異分野の研究に触れる楽しさ
加藤 千恵 地球社会統合科学府・包括的地球科学コース
比較社会文化研究院・環境変動部門

 2022年4月に比較社会文化研究院に着任しました、加藤千恵と申します。2018年に東京工業大学にて博士(理学)の学位を取得したのち、地球変動講座の大野正夫先生の研究室に学術研究員として在籍し、その後半年間東京工業大学の研究員を経て、2020年度から学振PDとして比文に戻っておりました。なじみ深い比較社会文化研究院・地球社会統合科学府ですが、心機一転、頑張っていきたいと思います。よろしくお願いいたします。

 こどもの頃から生命の歴史や恐竜などの今は滅んでしまった生物に興味があり、生物の進化や絶滅をもたらした地球環境の変動について学ぶうちに、地球そのものの構造や進化についてもっと知りたいと思い、地球科学を志しました。大学で地球惑星科学科に進み、授業や実習を通してマントルやコアといった地球深部の世界に魅力を感じたため、卒業研究では高圧実験の研究室を選びました。地球の半径約6,400 kmのうち、中心から約3,500 kmは鉄を主成分とする金属でできたコアで、その外側にカンラン岩やその高圧相などの岩石でできた分厚いマントルがあり、表層のわずか数kmから数十kmを地殻が覆っています。私たちが実際に手にすることのできる試料は表面の薄い地殻のものがほとんどで、マントル捕獲岩やオフィオライトなどの例外を除き、地球の体積の大部分を占めるマントル、ましてやコアの物質は直接手にすることはできないのです。さらに、地球の内部は非常に高温かつ高圧の世界で、コアとマントルの境界では3,500 K(ケルビン)・135万気圧、地球の中心では5,000 K・364万気圧にも達します。このように表層とかけ離れた環境でコアやマントルを構成する物質がどのような物性を示し、地球の進化の歴史にどのような役割を担ってきたのかを解明するため、プレートテクトニクスの作用によって地球内部にもたらされた地殻物質の高圧相転移や溶融に関する実験、コアに含まれる軽元素を推定するための実験を行っていました。大型放射光施設SPring-8で実験をできたことも貴重な経験です。

 そんな研究を進めていくうちに、実験室で合成される単純化された系ではなく、実際の地球の試料を使った研究がしてみたいと思うようになりました。悩みに悩んで当時の指導教官に相談したところ、ちょうど東工大に着任されたばかりであったJoe Kirschvink先生につくことを勧められ、古地磁気学の研究を始めることになりました。博士課程の後半から現在まで、鉱物単結晶を使った地球磁場強度の長周期変動の解明というテーマに取り組んでいます。詳しくは2021年3月発行のCROSSOVER 第46号( https://isgs.kyushu-u.ac.jp/en/cooperation/cooperation3_view.php?bookId=71) に書かせていただきましたので、興味のある方はお読みいただけますと嬉しいです。

 地磁気・古地磁気・岩石磁気学のコミュニティに身を置き、学会や研究集会に参加する中で、地球磁場と地質試料の磁性を用いた研究のカバーする範囲の広さに驚かされました。地球磁場そのものの性質を解明し、その源であるコアの性質や地球内部の歴史を探究する研究、岩石や堆積物などがある時点の地球磁場を記録する性質を利用した地殻の移動履歴の推定や年代決定、環境に応じて変化する磁性鉱物の種類や量、粒子の大きさの違いを利用した気候や環境変動に関する研究などなど。特に、大野先生らのグループが取り組んでいる考古学との融合研究には大変興味を惹かれました。生命の歴史と並んで人類の歴史にも興味があったのですが、地球科学を選んだ段階で人文科学としての歴史を研究することは半ば諦めたような気持ちだったので、思いがけず自分の学んできたことが考古学の研究にもつながることを知り、可能性が一気に広がったように感じられました。

 昨年度から私自身も磁性の変化に着目した土器焼成環境と焼成時の化学反応の解明という分野融合的なテーマに取り組んでいます。高圧地球科学から古地磁気学・岩石磁気学に専門分野を変え、考古学・文化財科学との融合研究にも携わるようになった経験から、異なる分野の研究者と交流し、考え方を学ぶことの楽しさ、重要性を感じてきました。私自身も、多様なバックグラウンドをもつ地球社会統合科学府のスタッフ、学生の皆様にとって刺激となるような「異分野の研究者」でいられるように頑張りたいと思います。

 

     西オーストラリア・ピルバラにて古地磁気測定用の定方位試料を採取中の筆者

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