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博士後期課程を自省して
御代川 涼 生物多様性講座

行き当たりばったりの博士後期課程でした。4年間の地球社会統合科学府での大学院生活の中で得たものは色々あれど、最も有用だったのは、自らの性根に対しての理解が進んだことでした。

私の研究テーマはヒドラと緑藻の共生メカニズムで、他学府で行っていた研究を継続していました。そのときから楠見先生に協力していただいていたため、生物多様性講座に所属することに。当時は修士論文の研究を発展させ、投稿論文を書いていけば学位を取得できるとおぼろげに考えていました。もちろんおぼろげな考えでは学位に行き着くのは難しく、研究を進めて手法を検討したり、ある程度データが揃ったりした段階で明確な学位論文のビジョンを描く必要があります。それを怠っていたため、学位の取得が博士後期課程4年目の末日というぎりぎりの時期になってしまいました。研究の進める道筋として、網羅的に解析を行って全体図を描くのか、はたまたある事象の細部を詰めていくのかを後になるまで、ふらふらしていたのが失敗でした。研究のゴールは、中途での変更も考慮しつつも、早くに設定しておけばよかったです。

さて、生物多様性講座では生態や分類といった生物のマクロなところに重点を置いて研究することが多かったため、私の研究である分子的な共生メカニズムとはやや分野が重なっていませんでした。これ自体は、より広い視野をもって研究を進められたためメリットも大きかったのですが、セミナー等で突っ込んだフィードバックを得るのが難しいことにもつながりました。学生や研究者の集まりや学会に積極的に参加し、最新の研究のトレンドや分野の研究者からの指摘を受けるとよかったのかもしれません。

博士生活で最も助けになったのは、学振DC2に通ったことでした。3回目の申請で通ったため、期間は3年目と4年目になります。結果的に期間中は在学していましたが、申請書を書いた段階では後半1年は学位取得後になる計画でした。これが厄介であり、学振の有無で研究計画に大きな変更が生じてしまう可能性があります。とはいえ研究計画書の執筆は、研究の方向性を再考するにうってつけでしたし、結果的に4年間博士後期課程に在学することになったので、大いに助けになりました。収入の当てができてしまったため甘えてしまった部分もありますが、比較的安定した収入と研究費の支給によって余裕を確保できました。大学による経済支援なども充実してきているので、学振とあわせて調べてみることをおすすめします。

私は、博士後期課程から地球社会統合科学府に入学したため、学際的な取り組みには必修科目およびフューチャーアジアプログラムの少数の講義でしか関係しませんでした。入学前に研究テーマに手を入れないと研究の幹にするのは難しい印象です。私の周りでも、学際的な要素を取り入れて研究していた人は珍しかったです。とはいえ、学際的なテーマで研究をされている先生もいることや共創学部からの学生の受け入れといった要素もあり、将来的には期待できる点もあるのではないかと思いました。振り返ると、分野横断的なワークショップや外部講師を招いての講義も盛んだったので、いかに環境を利用して見識を深め、研究に取り込んでいくかを考えておけばよかったです。

これまで難点を挙げてきましたが、在学して良かった点はフィールドワークの重要性について実感できたことでした。必修として、地球社会フィールド調査法の講義があり、フィールドワークに取り組む心得を習得できました。フューチャーアジアプログラムでは、フィールドワークの資金を助成してもらい、東北地方での野外調査に取り組むことができました。研究室でも毎週のように野外調査が企画されており、私も時々同行しました。熟練した野外での調査方法を学ぶことができましたし、なにより野外調査へのハードルが下がったのが収穫でした。野外調査を通して、研究テーマ外にも見識を広め、貢献できたことをうれしく思います。

新型コロナウィルスによる影響は、PCでの解析が主だった私の研究にも大いにありました。自宅においても研究のある程度の部分は進行できるものの、大学における人との交流がオンラインに限定されるため、助言をもらったり、指導をしたりする場が大いに減ってしまい、学術的な刺激を受ける機会が減ってしまいました。また、緊急事態宣言時には、実験生物の飼育は継続して行っていたのですが、実験の進行は中止されていたので、もどかしい思いをしました。大幅な研究計画の変更が生じなかったのは不幸中の幸いでしたが、先行きが見えない中博士後期課程で研究するのは、霧の中にいるようで気をもみました。しかし、これも行き当たりばったりの計画性のなさに由来するところが多々あると思うので、研究においては適切な目標を定めてから走り出すべきでした。

月並みな結論になりますが、皆さんの反面教師にしてくださると幸いです。